後藤大輝

実行委員長

2000年の向島博覧会を引き継いで、昨年、第一回すみだ向島EXPOを開催しました。

コロナ禍での初開催だった昨年に続き、今年はポスト“国際的な祭典”を意識せざるを得ません。

本EXPOは、緊急事態宣言下でも続けられる体制をもとに「新しい小さな博覧会」のモデルを試行錯誤しています。

伝統的な地域の催事も縮小されるなかで僕らが行うのは、変化する日常を継続させた、日々の博覧会です。

そして、この街の未来を創造するために「表現を通じて発信しなければいけない」と強く思うのは、こんなにも積み重なった文化のある街がなくなってしまう危機感があるから。

ここ「すみだ向島」は、木密で密接し合う路地と共に、東京の長屋文化を独自に形成してきた街です。

挨拶にもこの街の方法があり、人にかける言葉にもこの街の距離感があり、日常と非日常での関わりにも法則があります。

長屋のように、連鎖的で、個別でありながら運命を共にしてきた稀有な環境は、人と人が共生するための慣習を築きました。

お嫁さんが来たら近所にお披露目会をし、
親に叱られて家から出された子供を帰すのには隣人が一役を買って出る。

感染者ゼロの自治体を謳うよりも、
ひとり目の感染者が出たときの配慮を回覧板で呼びかける元町内会長がいる。

すみだ向島EXPOは、このような検索では出てこない長屋文化を、社会に必要な共同体の在り方として問い直す場です。

「多様性」という言葉を耳にすることが増えた昨今ですが、本当の多様性とは、我慢しながら他の人たちと付き合うこと。

街の人から聞く「粋といなせは、やせ我慢だ」という一喝には、ある種の誇りすら感じます。

その言葉に込められた、多様な「隣人との幸せ」を見出す文化のなかに、どんな事態もしなやかに乗りこなす術がつまっているからです。

僕は、この街で育まれた思考を駆使すれば、未来を担う新しい共同体を作ることができるのではないかと思っています。

高度に熟練した『表現する街』が実現されたならば、他の地域に住んでいる人、これから生まれてくる人たちの助けにもなるはずです。

とはいえ「一緒にそんな世界をつくりませんか?」と呼びかける前に、まずは「この街で何が起きているのかを、あなた自身で感じてみませんか?」と伝えたいのです。

ぜひ、すみだ向島EXPOをきっかけに、この街の関係住人になってください。