アーティスト
A4_表現を着がえる演習
西尾美也+東京藝術大学学生@洋品店
向島地域は、「東京一災害のリスクが高い」「災害に弱い町」とされてきたからこそ、まちづくりに尽力してきた地域の連帯や、近い距離で「共に生きていく」高度な暮らしが根付いていると聞きます。
企画タイトルである「表現を着がえる演習」は、藝大生向けに実施している自主練の名称でもあります。最終的なアウトプットとして、展示というフォーマットの中で、モノとしての作品が求められがちな大学のカリキュラムにおいて、自らの表現を別の条件で、別の形態で思考していくためのレッスンです。学生たち個々の主題を、お題(他のメディアや方法、状況、場所)に合わせて変換するとしたらどんなプランになるかという構想を、毎回発表しあっています。
本企画は、この応用編として、向島地域の洋品店を舞台に、学生と町の人々が「表現を着がえる」試みです。
「着がえる」ことは、他者の立場になって考えてみることであり、その差異から気づきを得たり、着がえられない核を発見することです。その意味で、「着がえる」ことは「共に生きる」ことであると言えます。「共に生きる」技術について、学生と町の人々が学び合う(共創する)ために、会期中、学生たちのいろいろな企画を洋品店で展開します(空き店舗ではないので、洋品店の機能は残したまま、学生たちのアイデアが掛け合わされていきます)。
店主にとって、これまで仕入れ、陳列、接客というルーティンでは常連が減っていくストーリーしかなかったところに、学生の表現がお店に介入することで、店主が第一の観客となり、それを来客者に説明し対話や繋がりを生み出す表現者にもなります。学生たちが場所に合わせて表現を着がえることで、洋品店に訪れる人たちの客層も、そのお店の存在意義も着がえていくことになるでしょう。店主は変わらずそこにいて、他者や町と新しい視点で交流する。学生と店主が普段の表現を「着がえる」ことで、「いま・ここ」という着がえられない核を克明に描き出し、ある時代を駆け抜けた商店街における洋品店の「生きたアーカイブ」を、関与者全員が主体的立場となって表現していくのが本企画の趣旨です。
詳細はQRにて
西尾美也
1982年奈良県生まれ。美術家・ファッションデザイナー。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したアートプロジェクトを国内外で展開。ファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」を手がける。近年は「学び合いとしてのアート」をテーマに、様々なアートプロジェクトや教育活動を通して、アートが社会に果たす役割について実践的に探究している。近刊に『美術は教育』(編著、現代企画室)、『装いは内破する』(単著、左右社)がある。