アーティスト

リビング横丁

Disconoma@かずの子

アーティスト・デュオのDisconoma(ファニー・テルノとトマ・ヴォティエ)は、横丁の空間構造を、展示と共同生活の合間にあるような空間に再構築することを提案する。

すみだ向島EXPOは2023年の開催にあたり、東京の都市計画に多大な影響を与え、京島に独特のアイデンティティをもたらした1923年の大地震の記憶をテーマに選んだ。 震災と大火の後に建てられたバラックと、京島の長屋、そして横丁には共通点があり、長屋と横丁はバラックの子孫(震災後建築)とも言える。これらの建築形態は共通して再利用、DIY、空間の個性化といった空間の価値向上を可能にする一方で、常に取り壊され、新しい建物に取って代わられる危険性をはらむ、不安定さを持っている。同様に京島という街は、横丁のような狭く有機的な路地によって構成されており、これらが路地の距離よりも密接な人間関係という、特別で価値のある社交性を生みだしている。

今回のすみだ向島EXPOで、かつて居酒屋「かずのこ」が商いをしていた空き長屋を引き継ぐことになったDisconomaは、建物を「裏返」し、内側と外側を入れ替えることを考えた。ここで居酒屋は横丁の中に存在するものではなく、代わりに居酒屋自身の中に路地が存在し、複数の居酒屋が存在する。まるでマトリョーシカのような空間となる。そしてこの目的は、集合的で共創的な空間を作り出すことにある。

その意味で、「リビング横丁」は、かつてゴードン・マッタ=クラークが率いたコレクティブ・プロジェクト「フード」(1971-74年)の遺産の一部であり、かつトマにとっては、50年前の叔父の実践へのオマージュでもある。同時に「フード」が実践されたニューヨークのソーホーと京島という2つの地域は、芸術と地域コミュニティの面で多くの類似性を持っている。

Disconomaのインスタレーションは、横丁の典型的な特徴(こぢんまりとした親密な空間、控えめな色彩の照明、さまざまな匂い、生活音)を呼び起こし、京島を代表する要素(長屋、DIY、常に続く工事、商店街、そして活気のある雑多な植物)と融合している。1923年の大災害がこのような建築形態を生み出したとすれば、Disconomaもまた、不安定さと変容という美学の元で、大災害をこの展示の中で柔軟に探求する。

この空きスペースは、その規模に応じた生活空間、展示スペース、舞台装置そして彫刻へと姿を変える。また更に、横丁に命を吹き込む一連のイベントによってこの空間にリズムが生まれる。その目的は、1923年の震災から受け継がれた狭い路地によって構成された建築物がもたらす特有の社会性への頌歌として、この廃墟と化した場所に再び命を吹き込むことにある。その結果、アートを愛する人々だけでなく、文化的なイベントに特別な関心を持たない人々にとってもアクセスしやすく、アーティストも、そうでない人々も参加できる空間となる。このようにDisconomaは、作品とアーティストの存在を変容させ、それぞれを可能性に満ちた自由な空間と、そこに導かれた多様な参加者へと置き換えている。

Disconomaは、アーティストのアトリエ、居酒屋/横丁、研究拠点そして展示スペースが混ざり合った空間を築く。ここでは、アーティスト、料理家、研究者たちを招き、カウンターでの会話に加え、食の探求、そして講演やダンスパーティーなどが実践される。


ファニー・テルノ(1992年、モナコ生まれ)とトマ・ヴォーティエ(1993年、フランス・パリ生まれ)は、アーティスト兼研究者で、2016年からデュオとしてDisconoma(ディスコノマ)の名で活動している。学際的な活動において、彼らはエコロジーと社会活性化のためのツールとしてのアートの可能性を探求している。写真やミクストメディアによるドキュメンタリーの制作、コラボレーション・イベントの開催、空間ディスプレイの構築、オルタナティブ・アート・プレイスの活性化などを行っている。彼らはフランスの美術学校(ファニー:国立アルル写真学校、トマ:国立装飾芸術高等学校)を卒業。そして現在、フランス(エクス・マルセイユ大学、国立写真学校)と日本(京都市立芸術大学)の双方の地で、研究・創作のための博士課程に在籍している。大学交換留学(京都造形、2016-2017年)と研究旅行(尾道、京都、2019年)を経て、現在は京都で働きながら生活している(2022年~)。

彼らのプロセスの中心は、展示スペースの居住とマイクロ・コミュニティの創造を通じた芸術的集団主義の実験にある。そのため、彼らのアプローチは、フランスのオルタナティブで田園的な芸術の場であるリジエール(レジデンスと社会参加型実験の文化センター)への参加や、ドキュメンタリー装置としての日本の過疎の村(写心庵)での茶室/カメラ・オブスクラの建設と上演など、社会参加型の状況をデザインすることを中心に展開される。

彼らのプロジェクトは、京都(妖怪画廊、関西日仏学館、トモギャラリー)、東京(スパイラルアートセンター、仲町の家、ONAプロジェクトスペース、すみだ万博)、フランス(グラン・パレ、ル・ユイギャラリー、ラ・カペラ、ラ・ジェネラル、国立高等写真学院、リカール財団)で展示され、様々な研究機関(京セラミュージアム、国立美術史研究所、フランス国立図書館、エクス・マルセイユ大学、国立マン高等美術学校、国際芸術センター)で議論されている。