アーティスト

時の生態系

un-pers@ごでんや(仮)

砂時計は静寂の中で時間の流れを示す。その透明なガラスの中の砂は、ただの砂ではない。それは人情やその土地固有の文化、そして受け継がれていくものを物語る。砂はその流れる時間の中で新しい意味を持つ。有限のそれらの素材が重力の働きで下部へと落ちていき、その落ちる動きを眺めることで私たちは過ぎ去った時を感じることができる。
上部から砂がなくなる瞬間、それは終わった一区切りの時間、そしてそこに刻まれた文化や歴史を私たちに告げている。下部に積み重なっていく砂は過去、それは過ぎ去った時間。中部のくびれから流れ落ちる砂は、この瞬間、今ここにある現在を示している。そして、上部にまだ残されている砂、それは未来、まだ訪れていない未知の時間を表すのだろう。
この砂時計の比喩は、墨田のまちにも通じる。このまちには、古くからの町並み、商店、そして人々との繋がりが息づいている。そのまちの中で、時間は流れ続け、場所は同じでも、まちの形や風景は絶えず変わっていく。砂のように、まちもまた時間の中で形を変えているのだ。
私たちは、予期せずに突然訪れるリセットを持つ街に住んでいる。この「リセット」とは、災害や再開発などの大きな変動を指す。特に墨田の街は木密地域の火事や、地震による長屋の倒壊の危険性を孕んでいる。そのようなリセットを前に、すみだのまちは、そのときを静かに待っている。それは砂時計が全ての砂を落とす瞬間のようなもので、全てが一新される。そして、このまちを構成する要素それぞれが異なる寿命や時間の流れを持つ砂時計のようにも思える。この複数の砂時計が連携し、時を刻むことで、「まち」という独自の時間の流れが生まれてくる。しかし、災害や再開発により、この繊細な時間の流れは一瞬にしてリセットされてしまうこともある。
本作品では、そのリセットのタイミングをコンピューテーショナルに制御することで、可能な未来の姿や、変化の中でのまちの可能性を砂時計によって表現することができる。また砂時計の中に、墨田の砂や空き家から木材チップを使うことで、まちのカケラが様々な速さやタイミングで流れていく。コンピューテーショナルな方法で、日々変わりゆくまちの多様性や独自性を捉え、私たちは新しい時の流れと向き合っていくのだろう。本作品を通して、普段とは違った視点で街の時間を捉えることで災害への向き合い方や未来について考えるきっかけとしたい。

異分野(都市、建築、AI)で活動する大学院生3人によるクリエイティブユニット。一人一人が持つ視点をun-personな媒体を通して引き出し、多角的な視点で街を捉える作品や場を創出している。
まちに擬態したいAI、かもしれない展、ライラ・カセム氏との対談、ラジオあんでの収録など、数々の実践を通し、社会に問いを投げかける。
JIDF学生文化デザイン賞2023博報堂賞 受賞。

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坂倉 康太(都市)
都市環境・住環境計画学を専攻。幅広い視点やスケールでものを捉えて考察することを「心のカメラ」と呼び、日々大切にしている。地域や空間の持つ価値を高める仕掛けや方法を考え、挑戦中。好きな言葉は「sense of wonder」。

羽田知樹(建築)
千葉大学で建築を学ぶ学生。「ぽーぽい」とは、出身地(福島)の方言で、あたたかい、火照っている様子を指す。初めましての人も、職人さんも、地域の人も、みんな巻き込んで、顔がぽーぽくなるような話や体験、それらができる場を作っていく。

加藤優(AI)
AI エンジニア。「創造性を拡張する AI で誰もが表現者になれる世界を作る」をテーマに体験型インスタレーション作品の制作とサービス開発を行う。