京島 3 丁目を散歩しながら軒下のアート作品を楽しむ「軒下プロジェクト」巡り

2021.10.24

京島 3 丁目を30分から1時間お散歩しながら、作品と軒下、そして街自体を楽しむことができる「開発好明プレゼンツ 軒下プロジェクト Vol.3(以下軒下プロジェクト)」。


展示する場所を探している アーティストと、軒下をアート作品の展示スペースとして提供したいと考えている地域の人との橋渡しを行う企画です。会場が 決まると、アーティストと会場オーナーは二人三脚で準備を進め、展示会期を迎えます。


最初の軒下プロジェクトは『39 アート(サンキューアート)向島 2019』で、開発さんが路地を歩いてリサーチする中で生まれました。昨年の EXPO での Vol.2 に続き、今年の Vol.3 で は10組の軒下プロジェクト作品を無料で鑑賞することができます。


この記事では、そんな今年版「軒下プロジェクト」の作品紹介をレポートします。


まずは総合受付の京島駅で、軒下プロジェクトのマップをもらいましょう。(なお、 有料作品鑑賞に必要なパスポートも京島駅で購入できます。)




1,能野裕子「井戸端会議」/日建 

京島駅を出て左に進むと、青と白の陶器の鉢が並びます。植物の間には、京島三丁目地区 に長く住んでいると思われるいたずら妖精たちが井戸端会議をしています。さまざまな大きさや形の妖精は、体の模様や目もそれぞれ違います。軒下プロジェクト 一つ目にして、ついしゃがみこんで見入ってしまいました。




2,稲沼俊「ガチャガチャ」/カメの家 

妖精たちの向いの建物には、カメが泳いでいます。左側には、ガチャガチャがあります。500円硬貨を準備して、「Mawaru Gacha」を回してみましょう。何が出てくるのかはお楽しみです。「ランダムとは先の見えない未来」として作品を展開する、稲沼さんの世界観を楽しみましょう。



3,村岡祐樹「We need to keep playing」/あんみつ姫の家

ガチャガチャの右斜め前には、ふだんの街なかに無いはずのものが見えます。そう、テトリスです。 村岡さんは、街の新陳代謝についてテトリスをモチーフに考えていきます。街では古い家が 取り壊されたり、自分が知っている場所が変化したりします。しかし街はテトリスとは違い、そこに住む人が消すものと消さないものを見極め、ゆるやかな変化をもたらすのです。



4,ナガタダイスケ「blur (view from the desktop)」/京島の家

テトリスを背に駐車場アップルパークの手前を右に進み、さらに左に曲がると、2 枚の大きな平面作品が張られた京島の家に着きます。作品タイトルの通り、パソコンのデスクトッ プ上で拡大・加工された写真は、ぼんやり(blur)と絵のように見えます。それでもまだそ れは写真であると鑑賞者に思わせるところに、ナガタさんは写真の面白さを感じています。



5,山口塁「確かに存在した俤、或いは今またここに」/石井製作所

隣人プロジェクトの「隔離する宿の家|北川貴好(※要パスポート)」の手前を右 に曲がると、路地の右側に石井製作所があります。正面 2 階の軒下に“スペインのモンセラ ット修道院”の写真が展示されています。長く残ってきた町や建物と、QR コード・LINE・ 24 時間で消えるストーリーといった現代人の消費的刹那的なコミュニケーションとを対比 させています。山口さんは、別名「プロ無職るってぃ」としても、インターネット上で言葉 の発信を通じて、違和感の表現を試みています。



近隣の EXPO 会場であるウラダナでは2つの隣人プロジェクトが公開されています。 ONA project room |Anais-Karenin Sound by Tatsuro Murakami、秘跡の部屋|開発好明 (※要パスポート)


6,赤星りき「ドローイングハウス」/高垣製作所

ウラダナを過ぎて左に曲がり、明治通りを左に進むと、高垣製作所のドローイングが目に とまります。町工場の内側にある日常のドローイングを軒下に引っ張ってくることで、見えなくなった景色を発見できる展示です。 ぜひ、高垣製作所の中の方に声をかけてください。勲章ケースの金具や、美しく装飾加工された金属片、そして軒下に描かれた年代物の機械を見せてもらえました。赤星さんの制作は現在も続けられており、訪れる度に変化する軒下を楽しめます。




左に曲がると、京島駅のある通りに戻ります。赤星さんのもう一つの展示会場「生の家: 京島共同木工所リノベーション(鑑賞無料)」の手前を右に入り、左に進みます。


7,水瀬けいと「綺麗⇄「汚い」⇄綺麗」/スペース愛

路地から少し広い通りに出て右に進むと、ビニールのかけられた石のごみ箱の野外展示 があります。意識して探しながら歩かないと、見過ごしてしまうかもしれません。「懐かし さのある綺麗な街並みの中に小さな汚い空間を作ります」という水瀬さんの文章と作品から、あなたは何を読み取り、何を感じるでしょう。




スペース愛の向いには、隣人プロジェクトの「さんかく長屋トンネル|サテライトキッチ ン&ヴィヴァネストペンギン(鑑賞無料)」があります。


8,葉 子(ヨウ シジン)「モノと場所のあるべきリンク」/喫酒 千日紅

スペース愛を後にしてキラキラ橘商店街を右に進むと、右側の千日紅に 2 枚の大きな「貸 看板」が設置されています。ヨウ シジンさんが日本で感じた違和感を表現した作品です。 「貸看板」に今後何か張られるのか、確認してしまいました(貼られません。これが作品の 姿です)。この作品を見ることで、自分にとって当たり前のことが、国や見る人が変われば 違和感に代わるということに気づきました。



近隣には2つのテーマプロジェクトが公開されています。「0人もしくは1人以上の観客 に向けて|飯川雄大、「遮光された社交の場が射光するための斜行。もしくは藉口?- 可塑的鉱物都市研究 -」|田原唯之」(※要 EXPO パスポート)


キラキラ橘商店街を来た方向に戻り、両脇の賑やかなお店を楽しみつつ、原公園手前を左 に曲がります。突き当りの通りにでたら、隣人コンシェルジュおすすめのお店「オーロラキッチン」の方向に向かって右手に進みます。


9,Li Lin(リ リン)「意識の鏡には君がいる周囲の環境の破片が写っている」 /とらばし

曳舟たから通りを左に曲がり、踏切手前の十間橋通りを左に曲がると、木枠にはめられた きらきらと輝くリリンさんの作品が見えてきます。展示会場のとらばしや店の周囲を撮っ た写真がコラージュされ、「今ここ」をあたらめて見回すきっかけを作っています。リリン さんの作品は店外のみですが、とらばしの奥様に店内を案内されてびっくり、奥には想像していなかった広い空間が広がっていました。リリンさんの作品に導かれた発見でした。次回 はぜひここで食事をしよう、とお店をでました。




とらばしを出て左に進むと、大正末期の長屋建築 文花会館が見えてきます。文化会館は この街の象徴となるような建物「隣人プラットホーム」で紹介されています。ぜひ他の「隣 人プラットホーム」も見たいと思いました。


10、倉科明尚「いけずだけともおじゃまします」/アカデミックハウス

「第四吾嬬小前交差点」を右に曲がれば、テーマプロジェクトクサムラマッドラットの作 品へ(※要EXPOパスポート)、左に曲がれば最後の軒下プロジェクト会場であるアカデミックハウスへ向かいます。 “いけず石”とは車や自転車が家の敷地内に侵入してこないようにわざと置かれている石の ことです。倉科さん自身の顔を描いた“いけず石”と、それを軒下に置いた倉科さんの想いを 見に来てください。




来た道をまっすぐ進めば、京島駅に戻ります。昔ながらの出桁作りの長屋建築を楽しみながら、散歩も終わります。 日中や夕暮れ時など、時間によって違った景色が見られます。ぜひ日を改めて京島 3 丁 目を訪れ、作品と軒下と街を何度でも楽しんでください。


取材・文・撮影:佐藤久美